作業療法(OT)とエビデンス

日本の作業療法は、医師の下で医療の枠組みで提供されます。

医療なので、その実践の根拠(エビデンス)が必要になります。

エビデンスとは

エビデンスという言葉は、作業療法においては、「根拠」という意味で用いられます。

「エビデンス」は作業療法だけでなく、医療一般や保険医療などの分野でも用いられる言葉で、少しでも多くの患者にとって安全で効果のある治療方法を選ぶ際に指針として利用されています。

なぜエビデンスが必要なのか

作業療法にも、運用によっては対象者の害になりえる介入があります。

たとえば、認知症の進行に伴って、活動性が低下した寝たきりの患者様に対して、あやまったポジショニングをおこなうとどうなるでしょうか。

実は、誤ったポジショニングは、長期的には屈曲拘縮を作り出すことが明らかになってきています。

屈曲拘縮が発生すると、入浴や行為などの日常生活動作(ADL)が、スムーズに行えなくなり、介助量も増大し、ご本人様だけでなく介助者の負担も増大します。

そうした負の結果につながる確率を減らし、きちんと対象者の方のQOL(生活の質)の向上に寄与できる可能性が高い作業療法的介入を行うために、はどうしたらよいでしょうか。

そこで、エビデンスが必要なのです。

過去の事例やそれを統計的に処理したデータを用いることによって、治療が適格に選択できるようになります。

作業療法は、エビデンスで裏付けされている必要があります。

作業療法におけるエビデンス

まず、学術論文をエビデンスとして用いることができます。

作業療法士が実際に介入をとおして経験した事例や、その事例を基にして統計処理などを行って作成されたデータを用いることで、より確度の高い介入を行うことができます。

日本の作業療法の学会などにおいては、こうした事例を報告した論文が数多く発表されています。

これは、作業療法が個々の対象者それぞれに対して、ある程度オーダーメイドで介入を計画することが背景にある為と考えられます。

実際に介入を行ってみてのみ、その介入の妥当性がわかるのですから、当然介入を行った結果をペースとした論文が多くなることには、一定程度の妥当性があります。

ただし、一般の医療においては、適切な統計処理を行ったデータのみが信頼性が高く、エビデンスとして質が高い情報として認められています。

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作業療法においても、きちんとした統計処理の結果として、一般的な傾向や確率などが適切な統計処理によって明らかとなっているようなデータがこれからますます求められていくことになると思いますので、なにはともあれその材料となるような事例報告的な論文が量産される必要性があると考えられます。

エビデンスレベル

エビデンスレベルというのは、どのくらい信用できるかということです。

数字が少ないほど、エビデンスとして強い、つまりかなり信用できるということになります。

下記にエビデンスレベルを記していますが、上から順番にエビデンスが強く、専門家の発言、意見が一番信用できないということになります。

1a ランダム化比較試験のメタアナリシス

1b 少なくとも一つのランダム化比較試験

2a ランダム割付を伴わない同時コントロールを伴うコホート研究

2b ランダム割付を伴わない過去のコントロールを伴うコホート研究

3 ケースコントロール研究

4 処置前後の比較などの前後比較、対照群を伴わない研究

5 症例報告、ケースシリーズ

6 専門家個人の意見(専門家委員会報告を含む)

エビデンスと新規の介入のバランス

とはいえ、現在エビデンスがある介入ではどうしても、目的とする結果が得られなかったり、QOLの改善につながらないという場合もあります。作業療法士としてよく悩みの種となるのは、すでにエビデンスのある介入を行うために必要となる条件をそろえるための人的、金銭的、時間的コストが投入できないことです。

そのような場合には、現在ある環境を用いてより結果のでるような介入を考案する必要性に迫られます。

つまり、エビデンスが十分に存在しない介入を、実践せざるをえない状況というのが必ず発生するということです。

その場合にも、きちんと情報化して、他の作業療法士が検証可能な状態になるように論文などの形で発表を行う必要があります。

これによって、自分の介入の正しさを、自分以外の人に証明してもらうことが可能になります。

あたらしいアイディアに基づいた介入を行うためには、作業療法士にはそのような説明責任が伴います。

つまり、あたらしいエビデンスになるような、情報化とそれを他者と共有する営みが必要になるのです。

そうした活動によって、統計処理の材料となるようなデータが必要な数だけそろい、作業療法士にとって介入するのに「ほしい」と感じるようなエビデンスが少しずつ整備されることにつながります。

事例検討のススメ

都道府県士会レベルで事例検討会が開催されているはずです。

まずは、そこへの発表を通じて、事例検討を効率よく発表する技術を鍛えましょう。

論文が量産できるようになると、自分自身の頭の中も整理され、確度の高い介入が行えるようになります。

また、上記にも書いた通り、専門職の責任のひとつである、説明責任が果たせます。

これによって、作業療法対象者の方と、介入の結果をやりとりする機会を持つことができます。

作業療法士は、自分自身のために積極的に事例検討を行うことを考えましょう。

作業療法対象者の方へお願い

あなたの治療を担当している作業療法士に、事例検討をはじめとした、学術論文の執筆の許可を求められた際には、ぜひご許可いただければと思います。

というのも、作業療法の世界は、まだまだ広がりをみせているところです。

ITの進歩や、分析の方法の進歩によって、これまでは経験則でしかなかった作業療法の世界が、科学的にあきらかにできるような時代になってきています。

そこで、必要なのが分析対象となる大量のデータです。

あなたの治療過程を、ほかの作業療法士が共有することで、ほかの方の病状や生活の障害が改善し、生活の質が高まるかもしれません。

担当する作業療法士の人となりに問題がないなら、ぜひともご許可いただければと、繰り返してお願い申し上げます。